出 張 報 告 書

1.電子基礎部 針谷 喜久雄

2.渡航目的

科振費重点基礎研究による派遣制度により「第13回新物質の電子物性に
関する国際冬の学校 (IWEPNM99)」に出席する。

3.重点基礎研究課題名

「金属絶縁体転移近傍の電子物性現象の解明」

4.渡航期間 1999年2月26日〜3月8日
  渡航先国名 オーストリア(ドイツ経由)
  開催都市 キルヒベルク

5.入手資料

1) IWEPNM99: Programs and Abstracts
2) IWEPNM99: List of participants

6.研究集会の規模

参加登録者 約150名
論文発表件数 カーボンナノチューブ 59件
       フラーレン系 50件
       その他の物質 19件
参加国 ドイツ、フランス、イタリア、英国、米国、ロシア、日本など

7.出席した会議で得られた情報など(目に付いた発表について)

・東京工業大学の斉藤氏は、最近のバンド計算の結果を報告した。2次元のC
60ポリマー系のc軸方向の格子定数を小さくしていくと、フェルミ面に有限
の状態密度が出て、金属化した相が存在することを予言した。カーボンナノチ
ューブにフラーレンが詰まって周期的に並んだ系に対してバンド計算を行った
結果を紹介した。フラーレンがC60の場合は絶縁体であるが、C78になる
と分子軌道の兼ね合いで、C78からナノチューブに正孔がドープされること
を導いた。
・Nuernberg の Hirsch 氏は、C60を官能基で修飾し、いろんな機能性を引
き出す実験を行っているが、デンドリマー超分子の構成要素となる鎖状構造を
C60につけ加えた超分子の合成結果が目をひいた。
・Pennsylvania の Luzzi 氏は,単層カーボンナノチューブにC60が入った
ような構造を合成することに成功し、それに重点を置いて発表した。C60が
入ったことを示す顕微鏡写真のみならず、ナノチューブ内をC60が順々に流
れていく様子、熱的な運動を起こしてドリフトする様子などをVTRにて示し
た。強い電子線をあてるとC60が大きく移動すること、250K以上の温度
で熱的に活性化された速い移動がおこることを強調していた。
・Cambridge の Robertson 氏、三重大学の斉藤氏らは、カーボンナノチューブ
からの電場下電子線放射現象に関して講演し、電場効果ダイオードや薄型ディ
スプレイに応用する可能性を検討した。斉藤氏は国内の企業とも共同研究し、
ナノチューブを電子銃内に使ってディスプレイを光らせ寿命を調べる試験をし
ている。
・Namur の Hunt 氏は、高エネルギー分光実験の結果に基づいて、Cs_xC60
の電子状態を特徴づけるクーロン相互作用のパラメターを見積もった結果を報
告した。x=1, 4, 6 の場合に解析した結果、C60を1サイトとみたときの有
効クーロン相互作用の大きさは、x に寄らないで 1.4 eV 程度であると結論し
た。
・Delft の Venema 氏は、低温にてナノチューブの電顕観察を行い、理論によ
るフェルミ波数と一致する周期の電子密度の振動構造を報告した。
・Copenhagen の Cobden 氏は、単層ナノチューブの輸送現象の実験を行い、
高温において電気伝導度の温度に対するべき的依存性を観測した。ラッティン
ジャー流体へのトンネル現象であると結論した。低温においては乱れによる後
方散乱の効果が効いているという。
・Basel の Schonenberger 氏は、多層ナノチューブのアハラノフボーム振動
について報告した。バイアス電圧に対する微分伝導度の温度にたいするべきが 
0.43 であり、それはラッティンジャー流体理論に従うと主張した。
・IBM の Avouris 氏は、単層ナノチューブで円環を作って輸送現象を観測し
た。1Kより高い温度では、弱局在効果の輸送現象が台頭すること、1K以下
ではアンダーソン転移がおこった電気抵抗が観測されることをしめした。また、
極低温の微分抵抗において、疑ギャップ的なくぼみが観測されるが、試料中の
磁気モーメントによる近藤共鳴効果をみているのではないかという。
・Lausanne の Forro 氏は、会議全体を総括してまとめ講演をした。フラーレ
ン系では、A_1C60において、金属相から温度を下げるとスピンギャップが開
いているのではないかと云った。カーボンナノチューブでは、発表総数59件
のうち理論の発表が5件しかなかったが、強相関1次元系の見方に立つ、ラッ
ティンジャー流体理論が成り立っていると強調した。ナノチューブの電場下電
子線放射現象は、応用に向けて期待できると云う。

8.所感

この冬の学校は、ウィーンのクズマニイ教授をはじめとする組織委員会によっ
て毎年開催され、今回で13回目を迎えた。初期のころは、導電性高分子や有
機超伝導体、高温超伝導体などがメインのトピックスであったようだ。199
0年代に入りフラーレン系の研究が盛んになると、フラーレンとその関連物質
が台頭した。ここ3回ほどは、カーボンナノチューブの実験的研究が世界的に
盛んに進展していることを受けて、カーボンナノチューブの発表が増加してい
るという。参加者は、IWEPNM の存在をまえから知ってはいたが、今回が初めて
の参加であった。予感通りと云うか、その時点で盛んに研究されている物質の
関係者が集結し活発に質疑応答がなされた。クズマニイ教授をはじめとする運
営者の方針として、Nature, Science, Phys. Rev. Lett. などの雑誌に論文を
発表している研究グループの関係者に招待講演を呼びかけていたからに違いな
い。各グループの大ボス的なかたが参加した場合もあったが、ポスドクくらい
の年齢の若手研究者も口頭講演に招かれていた。とくに若手研究者が口頭発表
し熱心な質疑応答を受ける機会というのは、その世代のかたがたにとっては良
い機会であり、大いに励みとなるであろう。

9. その他

この冬の学校の会議録は、American Institute of Physics より発行される予
定である。発行予定は、1999年8月である。

次回 (IWEPNM2000) の開催予定は、2000年3月4日〜11日が第1候補で
あるとアナウンスされた。第2候補は、1週間繰り上がった日程である。

以上