中性およびドープされたC60(C70)の励起子効果と
光吸収スペクトル(1994年9月29日記)
電子技術総合研究所物性基礎研究室:針谷喜久雄
フラーレン系の励起子効果について,強束縛模型を用いて考察する.
自由電子部分は,最近接の炭素原子間だけにπ電子の移動積分 t
を仮定する.励起子効果を取り入れるために,オンサイト斥力 U と
長距離成分 V をパラメターに持つ大野ポテンシャルを考える [1].
この模型を,ハートリーフォック近似と1電子励起配置間相互作用
法によって取り扱い,双極子近似で光物性スペクトルを考察した.
中性C60とC70の計算結果を実験と比較して図1に示す [1].
C60に固有な光励起ピークの励起エネルギー位置と相対振動子強度
は,U=4t,V=2t (t=1.8eV) の理論でうまく記述されることがわかる.
C70については,分子の対称性が低下するため,実験との一致は
overall である.両分子に対して,理論のパラメターは共通である.
次にフレンケル励起子効果が明瞭にみられる,ドープされたアルカ
リ金属の濃度が最大である場合を考えた(図2)[2].実験でみられる各ピ
ークの励起エネルギーと相対振動子強度を説明するために必要なク
ーロンポテンシャルの強さは,中性フラーレン系の時の値のほぼ半分
(U=2t,V=1t,t=2.0eV) であることがわかった.C60とC70に
対して共通に同じ結論を得た.電子ドープされたフラーレン系にお
いては,励起子効果を特長づけるπ電子間の有効クーロン相互作用の
強さが弱くなるのである.EELSの実験 [3] によると,最大ドープの
場合の静的誘電率は中性系のもののおよそ2倍である.ドープにとも
なって誘電率が増加するという実験事実は,計算結果とまさに符合
している.
参考文献
[1] K. Harigaya and S. Abe: Phys. Rev. B 49 (1994) 16746.
[2] K. Harigaya: Jpn. J. Appl. Phys. 33 (1994) L1093;
K. Harigaya: Phys. Rev. B (to be published).
[3] E. Sohmen and J. Fink: Phys. Rev. B 47 (1993) 14532.
[4] S. L. Ren, Y. Wang, A. M. Rao, E. McRae, J. M. Holden, T. Hager,
KaiAn Wang, W. T. Lee, H. F. Ni, J. Selegue, and P. C. Eklund:
Appl. Phys. Lett. 59 (1991) 2678.
[5] J. P. Hare, H. W. Kroto, and R. Taylor: Chem. Phys. Lett.
177 (1991) 394.
[6] T. Pichler, M. Matus, J. Kuerti, and H. Kuzmany:
Solid State Commun. 81 (1992) 859.
図と説明
図1:計算結果(実線)と実験データ(細線)の比較.
C60の実験は文献 [4] より,C70の実験は文献 [5] より引用した.
図2:計算結果(実線)と実験データ(細線,点線)の比較.
A6C60の実験は文献 [3,6] より,A6C70の実験は文献 [3]
より引用した.Aはアルカリ金属を意味する.