日本火山学会1997年度秋季大会講演予稿
過去5000年間に九重火山で発生した小規模噴火
○ 伊藤順一・星住英夫・川辺禎久・鎌田浩毅(地質調査所)
Small scale-eruptions at Kuju volcano, during the last 5,000 years
J. Itoh, H. Hoshizumi, Y. Kawanabe and H. Kamata (Geol. Surv. Japan)
1.小規模噴火による放出物
調査範囲内の10数カ所で,黒ボク土に挟まれる粘土質火山灰を確認した.代表的な露頭の位置を第1図に,14C年代値を基に対比した柱状図を第2図に示す.確認された粘土質火山灰は厚さ1-10cm程度(最大60cm)で,岩相は類似しており,肉眼的にはほとんど区別できない.黄白〜暗灰色の粘土と砂粒サイズの粒子からなり,一部の露頭では粒径数cmの変質岩片(灰白色)が混入するユニットもある.砂粒サイズの粒子の構成物は,強度の変質を受けた白色〜緑灰色の岩片,変質の程度の弱い安山岩質〜デイサイト質の岩片,及び石英・長石・角閃石などの鉱物片で,硫化鉄鉱物や火山ガラスが認められるユニットもある.これらの構成物の相対量比はユニット毎に若干異なるようである.
複数の粘土質火山灰から5 vol%以下の火山ガラスを確認した.火山ガラスの形態及びガラス表面の状態から,以下の2種に大別され,両者が混在するユニットも認められた.a)平板状及びY字状のバブル型火山ガラス.ガラス表面は比較的清澄.無色透明のものが大半だが,薄墨色を帯びた粒子もある.b)繊維状軽石型火山ガラス.無色透明からやや白濁.ガラス表面は風化(或いは水和)作用により汚濁を受けている.
火山ガラスの形態及び波長分散型スペクトロメータ(EDS)による主成分分析による対比により,バブル型火山ガラスは鬼界アカホヤ火山灰が混入したものであると判断される.また,軽石型火山ガラスの起源は明確にはできなかったが,風化(水和?)作用が進行していることから“異質あるいは類質物質”と判断される.
現段階では,噴火活動に関連する本質物質の存在は確認されておらず,いずれの粘土質火山灰も水蒸気爆発(或いは地熱地帯で発生した浅所爆発)によって放出されたものと考えられる.
2.小規模噴火の活動年代(14C年代)
粘土質火山灰の対比はユニット毎の岩相が類似している為に,肉眼的特長に基づいた対比は困難である.そこで,粘土質火山灰直下にある黒ボク土の14C年代値に基づいて対比を行った.その結果,過去5000年間に少なくとも8回(約4.3, 3.3-3.6, 2.4, 1.9, 1.7, 1.5, 1.0, 0.6 ka)の小規模な水蒸気爆発が発生していたと判断される.
3.3-3.6kaの噴火年代を示す粘土質火山灰層は,沓掛山から坊ガツルにかけての広い地域で確認された.層厚はa地点で最も厚く60cmに達し,b地点で30cm,i地点で8cmと東側に向かって薄層化する傾向にある.しかし,これら年代値を示す火山灰層に含まれる岩片の粒径(この場合ML値)は,任意の方向に単調に減少する傾向を明瞭に示さず,層相も観察地点により若干異なる.また,一部の地点 (c, f, g)では複数枚の降下ユニットの重なりが確認された.特に,g地点では2層の粘土質火山灰(黄白色)の間に,暗灰色で土壌質の薄層が挟在している.これら3.3-3.6kaの噴火年代を示す粘土質火山灰層は,ウ)比較的規模の大きな単一の噴火活動による放出物,エ)短期間に頻発した複数の水蒸気爆発噴出物が累積したもの,との2つの可能性が考えられるが,現段階ではエ)の可能性が高いと思われる.今後,ユニット毎の構成物量比の比較などのより詳細な検討を行う予定である.
(97.07.25)