97.09.18
秋田焼山1997年噴出物に含まれる火山ガラスの分析結果
地質調査所環境地質部火山地質研究室
気象庁仙台管区気象台が,1997年8月17日に採取した粘土まじりの火山灰に含まれるクリアな火山ガラスについて,EPMAによる主成分分析と水和層の観察を行った.また同時に,地質調査所研究員が採取した1997年噴火により放出された噴石,約5.3千年前に噴出した軽石,5千年〜約1万年に噴出した黒曜石含有の粘土質火山灰に含まれる火山ガラスについても同じ分析を行い,その結果を比較した.
1997年に噴出したクリアな火山ガラスはSiO2含有量が76-81wt%の流紋岩組成で,K2O含有量が3-6.5wt%と高いことが特長である.これと類似する火山ガラスは5千-1万年前に噴出した火山灰に含まれる火山ガラスの一部に認められた.
今回の噴火で放出された火山ガラスに発達する水和層は比較的厚く,単純な対比では約4.5千年前に放出された軽石層よりも厚い.
現時点において,今回の噴火により放出された火山ガラスが,新たなマグマに直接由来するものである証拠は得られておらず,今回の噴出物は,水蒸気爆発により,既存の山体の破片が放出されたものと考えられる.
1.試料
仙台管区気象台が採取した秋田焼山1997年8月16日噴出物(火山灰)に含まれるクリアな火山ガラス.秋田焼山1997年8月16日噴出物は,岩片,鉱物片,粘土鉱物からなるが,ガラス質の岩片も認められる.大部分のガラス質の岩片には微小な結晶や晶子が発達するが,微小結晶や晶子の形成がほとんど認められない比較的クリアなガラスが極小量(1個数%程度)認められる.クリアな火山ガラスは無色透明〜褐色で,気泡を含むものも認められた.今回,このクリアなガラス片をについての分析作業を行った.
なお,対比試料として秋田焼山1997年8月16日噴火により放出されたやや発泡したガラス質の噴石[*a],玉川温泉軽石[*b],黒ボク土を挟んで玉川温泉軽石の下位にある粘土質火山灰(以下,“黒曜石含有粘土質火山灰”と仮称する)[*c]に含まれる火山ガラス及び黒曜岩質岩片の分析作業も合わせて行った.
2.分析作業
波長分散型EPMAによる定量分析,及び組成像による水和層の確認及び厚さの計測を行った.
3.主成分分析の結果
1997年噴出物に含まれるクリアな火山ガラス及び対比試料の主成分組成の比較として,EPMAで分析した主要10成分の内,SiO2, K2O, Al2O3含有量に着目した.付表-1に各試料の組成値の範囲,付図-1としてSiO2-K2O図,付図-2としてSiO2-Al2O3図を示す.
1997年噴出物に含まれるクリアな火山ガラスは,透明ガラス・褐色ガラスともに,SiO2含有量が75-80wt%の流紋岩組成を示し,K2O含有量が3-6.5wtと高い価を示すことが特長である.K2O含有量が5wt%以上を示す火山ガラスの存在が確認されたのは,黒曜石含有粘土質火山灰に含まれる,透明火山ガラスBグループである.
4.水和層の観察及び測定結果
火山ガラスの水和層は電子顕微鏡を用いて組成像として観察すると,相対的に暗い帯として確認することができる.今回の水和層厚の計測は,スケールを写し込んだ組成像を写真撮影し,帯の厚さを定規で計測する手法をとった.計測試料及び計測結果を付表-2に示し,付図-3に頻度分布図を示す.
1997年噴出物の火山ガラスに認められる水和層の厚さを,対比試料から得られたデータと比較すると,今回の噴火で放出された噴石や玉川温泉軽石よりも厚く,玉川温泉軽石の下位の粘土質火山灰層よりも薄い.
火山ガラスの水和層の厚さは,基本的には溶融物がガラス化してからの年代に比例する[*d]が,火山ガラスの組成・周囲の温度・水蒸気量によって,水和層の進行速度は大きく変動することも知られている.従って,今回の噴出物に含まれる火山ガラスの水和層が,対比試料と比較しても比較的厚い理由として,(可能性1)既存山体の破片,(可能性2)ガラスのK2O含有量が高い,(可能性3)高温の温泉水・火山ガスにさらされた,(可能性4)前述の可能性1,2,3のいずれかの複合,が考えられる.
5.結論
1997年噴出物と同程度に高いK2O含有量を示すものは,黒曜石含有粘土質火山灰に含まれる透明火山ガラスBグループである.1997年噴出物のクリアなガラスには比較的厚い水和層が確認できたので,このクリアなガラス片は鬼ガ城溶岩ドームの下位の既存の火山体の破片が放出されたものと考えられる.