2008年6月14日に岩手県と宮城県の県境を震源として,マグニチュード7の大地震が発生した.ここでは,世界中に設置されている広帯域地震計で収録された記録のうち,P波部分を使って解析した結果を紹介する.
観測点分布を図1に示す.震源域を取り囲めるように22点の観測点を選んだ.これらの観測点で収録された広帯域地震計の上下動成分を用いた.P波初動を目視で読み取り,観測機器の影響を取り除いた後に地動に変換し,P波初動から60秒間を解析対象とした.

図1:観測点の位置(▼)と震央(★).太線で描かれた円のうち,内側は震央距離が30度,外側は90度で,この間の観測点が今回の解析に適した距離にある観測点.
長さ47.5 km,幅20 kmの断層を仮定した.断層の走向や傾斜角はGlobal CMTのbest double coupleの節面の1つ (走向:208度,傾斜角:50度)を仮定した.この断層を矩形の小領域に分割し,各矩形領域でのすべり量,すべり角度,破壊開始時刻を波形から推定した.すべり角と破壊伝播速度は様々な値を仮定して解析を繰り返し,観測波形を最もよく説明できるものを採用した.最終的に採用したモデルにおける破壊伝播速度は2.8 km/sである.
破壊開始点の深さは1 kmから13kmまでの範囲で仮定し,残差が最も小さい(波形が最もうまく説明できる)5 kmを仮定した.
得られた結果を図2に示す.破壊開始点より浅い領域にすべり量が大きい領域(アスペリティ)が見られる.破壊開始点の北北東側と南南西側とに2つにわかれており,最大すべり2 m強のすべりを伴うアスペリティは南南西側にある.その一方で,断層の深部ですべりがほとんど見られない.破壊開始点近傍では,北北東側に比べて,南南西側へ破壊がやや早く進行している.すべりは逆断層成分が優勢であるが,すべりの大きいところでは,純粋な逆断層成分に多少右横ずれ成分を伴っている.破壊の継続時間は10秒足らずであった.

図2:波形解析で推定された結果.すべり量(左上; コンター間隔0.2 m),すべり角度(右上; 同5度),破壊開始時刻(左下; 同1 s),モーメント解放量率 (moment rate function; 右下).☆は破壊開始点を示す.右側が北北東方向,左側が南南西方向.
断層全体の平均すべり量は0.5m,平均のすべり角は98度である. 得られた地震モーメントは1.4 x 10^19 Nm,モーメントマグニチュードは6.7である.Global CMTの地震モーメントの値 (2.7 x 10^19 Nm) の半分程度となっている.
図2に示した断層モデルから計算される波形を観測波形と比較した結果を図3に示す.概ねよく合っていると言える.

図3:観測波形(実線)と合成波形(破線)との比較.
断層の深部ですべりがないことは,震源域が火山地域であることと関係しているかもしれない.一般に火山地域は地下の温度が高いために,地震発生層の厚さが薄いことが指摘されている (例えば,Ito, 1993, Tectonophysics).本地域もこの地域にあたっているのかもしれない.特に,西に向かって深くなる(西傾斜の)断層の場合,断層深部がより火山に近づくため,深部でのすべりが生じにくい(そもそも,応力が蓄積されにくい環境にある)と考えられる.

図4:仮定した断層の位置 (矩形).断層の上縁を実線で示す.仮定した断層の深部が火山(赤い三角)の近くにあたり,そこではすべりが小さい (図2) ことに注意.赤線は活断層を示す.データは中田・今泉 (2002) を使用.陰影図は国土地理院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用.活火山およびその位置は,産総研の活火山データベース (http://riodb02.ibase.aist.go.jp/db099/index.html) を参考にした.
東に向かって深くなる(東傾斜の)断層を仮定して解析したが,西傾斜のものとほぼ同等に波形を説明できるため,どちらの傾斜かを波形解析から結論づけることは難しい.
謝辞:IRIS(Incorporated Research Institutions for Seismology)で公開されている広帯域地震記録およびUSGSが公開している震源データを使用した.