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研究テーマその2:
潜頭する熱水性金鉱床における探査法(元素比マッピング法)の開発(論文番号5

浅熱水性金鉱床は、全世界の金の約25%を供給しており、特に環太平洋地域では近年大鉱床の発見が相次いでおり、今後ますます探査活動が活発になると予想される鉱床タイプの一つである。従来の研究により、浅熱水性金鉱床では鉱床を中心とする粘土化変質帯が発達し、鉱床に近づくに連れその量や鉱物種が変化していくという定性的な傾向があることが知られている。

しかしながら、従来の研究成果に基づいた探査の場合、変質鉱物の分布などによる熱水活動域のみの特定に留まり、鉱化作用を伴う熱水変質帯を区別することができなかった。そこで、新しいアプローチとして、地表変質帯調査よる変質鉱物分布と岩石化学組成変化とを関連づけた解析を行うことで鉱化作用を伴う変質帯のみをシャープに抽出できるかどうかを検討し、定量的な変質帯評価指標の開発を試みた。

今回応用を試みた浅熱水性金鉱床である鹿児島の山ケ野鉱床は、地表下部100m前後から下部へ連続する潜頭性の鉱床である。

地表には粘土化変質帯が発達しており、図2中、赤点線で示した2箇所のゾーン3がもっとも熱水変質が進んだイライト/スメクタイト混合層粘土で特徴付けられる粘土鉱物の卓越するゾーンである。しかしながら、これらの結果は鉱化作用を伴う変質帯を鋭敏に反映していない。一方、地表岩石の王水溶解成分の濃度分布によれば、ゾーン3の外側の未変質または変質の弱い岩石ではNa、Srなどの元素濃度が高く、ゾーン3に近づくに連れHgなどの金属元素濃度が上昇する傾向を示す。一方、粘土鉱物の卓越するゾーン3内部ではNa、Sr並びにHgなどの金属元素濃度は減少し、KやAs、Au濃度が高い傾向を示す。このような元素変動のうち、Kの増加はイライトの増加、Asは黄鉄鉱の増加によるか、またはイライトなどの粘土に吸着されているために増加したものと解釈される。一方、熱水変質の進行と共に減少するNaやSrは斜長石の減少を反映している。

山ケ野鉱床周辺に分布する火山岩類には主要構成鉱物として斜長石,単斜輝石及び斜方輝石が斑晶及び石基に含まれている.実際,変質を被っていない新鮮な岩石の場合,斜長石とNa, Ca, Srの元素群との間に正の相関が存在する.岩石薄片の顕微鏡観察の結果,斑晶や石基として含まれる斜長石や単斜輝石及び斜方輝石は混合層鉱物に置き換えられており,特に石基部にイライト?スメクタイト混合層が卓越する傾向がある.X線分析による石英指数と化学組成分析の相関係数では,イライト?スメクタイト混合層鉱物,スメクタイトなどの粘土鉱物とNa, Ca, Sr各元素の相関係数は負の相関を示す.逆にKはカリ長石ではなく,石英やイライト/スメクタイト混合層粘土などと正の相関を示している.従って,熱水変質が進むにつれ,斜長石が変質しKを含有するイライト?スメクタイト混合層鉱物などが卓越するという岩石構成鉱物の変化は,Na, Ca, Sr濃度が減少し,K濃度が増加するという岩石化学組成変化に反映していることを示している.

特に, Sr濃度の低い岩石の分布域が斜長石が消失するようなV帯相当の粘土化変質帯を再現できる可能性のあることを指摘しておきたい(上図左).なお,斜長石量の少ない区域とSr濃度の低い区域の分布は概ね一致するものの(上図右),安良岳南部変質帯のV帯周辺のT及びU帯においてもSr濃度が低い区域がする.これらの低いSr濃度域は熱水変質による斜長石の消失に加えて,原岩の斜長石量が元々少なかったか,或いは王水による斜長石の分解が進まなかったことを反映している可能性がある.王水溶解による化学組成分析ではこのような構成鉱物組成の不均質性に強く影響を受けることから,各種鉱物の酸による可溶性及び溶解成分の詳細な研究が必要不可欠である.

従って、これらの元素比を組み合わせた指標であるAs/Sr比が高い岩石が、ゾーン3の分布域の中でも潜頭する鉱脈群直上に集中して分布する傾向があり、前に示した粘土鉱物マッピングよりシャープに鉱化作用を伴う変質帯のみを抽出できることが明らかとなった(図3)。

このようにAs/Sr比マッピングは、従来のX線分析などの手法と比べて、潜頭性の鉱床の存在をシャープに反映できる非常に有効な指標である。更に、硫化鉱物やイライト/スメクタイト混合層鉱物などの粘土鉱物は多くの熱水性鉱床にも認められることから、鉱床の形成に関連して系統的に増減する元素の濃度比を用いた探査法(元素比マッピング法)は様々なタイプの熱水性鉱床の地化学探査指標として適用できると考えられる。

 このトピックスに関して以下のようなご質問がありました。

Q1:
金を運んでくる熱水にAsが含まれていてその領域のAsが高くなるのは理解できます。Srは熱水変質を受けると金がつくorつかないに関係なく溶脱されるとすると、As濃度単体で異常を抽出してもAs/Sr比を取る場合と同じ傾向が出るような気がするのですが、どうなのでしょうか?

A1:
そのとおりです。ただ、本研究は、1)より精度良く鉱化帯を抽出するためにはどのようにすればよいか、2)安価で簡便な多元素同時分析によって鉱化作用の情報と変質帯情報を同時に取得できるのではないか(つまりお金のかかるX線回折試験(XRD分析をやらなくても良い)、という着眼で行っており、As単体の元素異常よりも更に鉱化帯有望区域を絞り込み、同時に変質帯の分布も再現するためにはどうしても元素比を導入する必要がありました。ちなみに、Au及びAs単体の異常図はこちらです。参考までに同じスケールのAs/Sr比の元素比異常図もこちらに示しておきます。As単体ではゾーン3の周辺にもちらほらと異常地点が出現するのが分かります。しかしながら、As/Sr比マッピングではそのようなゾーン3周辺の異常地点はほとんど消えて、ほぼ既存鉱化帯(特に山ケ野鉱床のチャンピオンベインが集合する鉱脈群南部区域:ボナンザゾーン)を抽出できていると思います。

補足ですが、浅熱水性金鉱床を形成するような熱水では、Au及びAsは共に硫化水素錯体として溶存しています。そのような熱水からある温度範囲でAuやAsが沈殿することにより鉱床や鉱床を中心とする元素異常ならびに粘土化変質帯が形成されるわけです。そのとき、AsはAuに比べて広い温度範囲、150゚C前後の低温の領域においても熱水中に溶解していますので、Auに比べてAsの異常域は広範囲に広がることが期待されます。一方、粘土化変質の進行によって斜長石は様々な粘土鉱物に置換され、その際にSrが溶脱されてしまいます。従って、熱水活動の中心で最もSrは減少すると考えられます。従って、熱水活動の中心=鉱床に近づくに連れ増加する元素と減少する元素を組み合わせることによって、より明瞭に鉱化帯を抽出できると考えています。

Q2:
変質帯同士を比較する場合、図3の一番下の図ではゾーン3の(1)の方がゾーン3の(2)より斜長石が多く失われているように描かれていますが、この傾向は元素濃度から予想されているのでしょうか?それともX線の強度で違いが出るほど量が異なるのですか?

A2:
図3下段の斜長石の量比を定性的に表した凹凸図のことですね。実際、(2)の変質帯の近くには、安山岩の採石場があります。そこでは(2)の変質帯の断面が見事に観察できますが、粘土化変質帯は地表付近に発達していますが、地表下30mで、暗緑色のプロピライト変質帯に移化しています。地表変質帯は方解石または石英細脈を中心として脈際の幅1-2mにセリサイト・モンモリロナイト混合層鉱物帯、その外側にスメクタイト帯(3-5m)、そのまた外側にプロピライト帯という具合に綺麗なゾーニングパターンを示しています。従って、(2)の変質帯では下部に向かって変質帯はあまり発達していないと考えています。一方、(1)では広範囲にセリサイト・モンモリロナイト混合層鉱物粘土化帯が広がり、文献等の記載では鉱脈は地表下250m程度まで連続することが知られていますので、(2)に比較してやや強調して描いているわけです。

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