手のひらサイズの高効率物質探索法
〜より高く、より速く、より少なく〜

エネルギー・環境問題は深刻化しており、人類は存亡の危機に直面している。この問題を解決するためには、新たな低環境負荷エネルギーシステムの構築が必要であり、そのためには優れた機能を有する様々な素子材料の開発が不可欠となる。つまり人類が存続するためには常に新たな機能物質を産み出し続けなければならない。しかし新物質には従来よりも優れた機能が要求され、物質探索は益々困難になる一方である。このような状況下で最近、高効率で物質探索を行うことができるコンビナトリアルケミストリー(コンビケム)が注目を浴びつつある。コンビケムは確かに物質合成を飛躍的に迅速化できるため探索には有効な手法ではあるが、その一方で原料及びエネルギーの消費量も飛躍的に増加させる。これでは環境・エネルギー問題をより一層深刻化させかねない。そこで、コンビケムに低環境負荷と省原料、つまりグリーンケミストリーとマイクロケミストリーの概念を加えた革新的な物質探索方法の開発が必要となる。我々はこれまでに、従来よりも合成・評価速度が数100〜1000倍、原料消費量が1/数10万で試料合成と評価が可能な方法を開発し、高い性能を有する熱電変換酸化物の探索を行っている。
開発した方法では原料に金属硝酸塩水溶液を用い、異なる組成比で原料溶液を高速微量混合する。そして試料合成後の特性評価を迅速に行うため、混合溶液をセラミックス基板上に自動塗布しライブラリーを調製する( 図1)。
溶液混合から塗布までの速度は100試料/時間で、消費金属重量は一試料あたり10?g程度である。調製したライブラリーを様々な条件下で焼成して、一日1000種類の試料を合成している。熱電特性の評価には現在、熱起電力を二端子法により測定している。この方法では一方の端子を加熱し、試料両端に温度差をつけることにより測定している。この方法では10試料/分の速度で特性評価が可能である。しかしさらなる高速且つ精密評価法としてペルチェ効果とサーモグラフィーを用いた方法の開発に取り組んでいる( 図2)。ペルチェ効果は熱電材料に通電したときその両端で温度差が生じることである。一定電流を通電したときこの温度差が大きいほど高い熱電性能を有する。この方法のコンビケム化には、電極の接続等、多数試料の同時測定に多くの問題が残されている。しかし「一目で分かる」方法として非常に興味深い。
コンビケムは材料研究者にとっては魅力的なものである。しかしコンビケムの意義はただ高効率での物質探索が可能であるというだけではない。これまで我々研究者は、ともすればエネルギーや環境問題についてあまり考慮せず物質探索を行ってきた。しかしこれからはそれは許されなくなるであろう。つまり、研究者も常にエネルギーや環境に配慮しながら研究を進めなければならない。ここで紹介したコンビケムはその解決法の一つとして今後より広い材料分野で発展していくものと思われる。

 



図1