「バリアフリーかユニバーサルデザインか、21世紀のまちづくり」
神戸芸術工科大学工業デザイン学科プロダクトデザインコース助教授
(住まいと道具研究所代表取締役)
相良 二朗氏
日時:平成10年11月12日(木)
場所:工業技術院共用講堂中会議室
講師連絡先: 〒651-2196 神戸市西区学園西町8-1-1
TEL.078-794-5041 FAX.078-794-5042
e-mail:sagara-j@kobe-du.ac.jp
要旨
バリアフリーは特殊解、ユニバーサルデザインは一般解のように思われている風潮があるが誤解である。バリア(障害)は、その人がおかれている状況(環境)と身体および精神機能にギャップがある状態を指す。ユニバーサルデザインは哲学(考え方)であり、「はじめからできる限り、すべての人に利用可能なように最大限の努力をもってデザインされなければならない」という考え方である。
今後、障害配慮デザイン(アクセシブルデザイン)、障害対応デザイン(アダプタブルデザイン)、ユニバーサルデザインの3つの手法がバリアフリー社会を築く。
講演内容
講演は、福祉にかかわる歴史的展開・社会現象とその考察に始まり、介護保険を含む行政、高齢者・障害者に関わる現状の問題と原因、講演者が兵庫県リハビリテーションセンター時代(21年公職に有り、本年7月現在の研究所を設立した)に処方した試作例、バリアフリーとユニバーサルデザインを話題の中心とする個人/社会:ハードウエア/ソフトウエアの分析、次いで講演者のこれからの社会を目指したデザインの考え方と戦略、バリアフリー製品の紹介を示された。また随所にわかりやすい例を引いて欧・米・日の文化比較まで幅広い内容であった。
以下、かいつまんで、要旨を述べる。
社会の高齢化に伴うサービス需要者の増加に伴い、健康保険や年金の破綻、医療による福祉の肩代わりやばらまき福祉からの脱却が必要になってきた。家庭介護の問題は寿命の伸びと産業構造の変化が生んだ社会現象である。
福祉亡国論が聞かれるが、福祉インフラの整備が雇用を創出する。福祉は施しでなく権利であり、早期の取り組みが問題解決を容易にする。[補足:発想の転換の必要性、国民的合意の必要性]
高齢社会は住宅(住環境)の形を変える。安全であり、保健・福祉サービスを受けやすいバリアフリー住宅が求められる。介護保険での在宅・施設に関する給付、居宅介護サービスの内訳について説明があった。これから始まる福祉用具貸与制度では、資本が必要なビジネスとなるため中小企業には苦しい。[補足:ちなみにスウェーナン、デンマークは、必要と認められると無料で半永久的に福祉用具が借りられるシステムになっている。] 介護保険をにらみ、大企業が福祉産業に参入をはじめており、福祉をとりまく世界が大きく変化をしようとしている。
高齢になると体力、感覚器が衰えて来る。高齢者の体は、20年ものの自動車でドライブするようなもの。動かなくはないが、ウォームアップは欠かせない。高速道路を飛ばすわけにはいかない。局部的な障害は他の残っている機能で置き換えられるが、加齢による変化は止められない。高齢者が寝たきりに陥る悪循環がある。その要因のおおきな一つとして廃用性症候群がある。歩き回るとあぶないからといって寝かせきりにし、ついには寝たきりになる。福岡で「縛りません宣言」した病院がある。
介護力が低いことが今の問題である。〔補足:高齢者が歩いて入院して4日で車椅子で退院ということもある。たった4日間で歩くのが困難になる。それを防ぐための研究が生命工学工業技術研究所(木塚朝博研究員ら)で行われている]
障害の捉え方をWHOでは以下の3つ、機能障害(Impairment)、能力障害(Disability)、社会的不利益(Handicap)に分けている。各々に対し、治療機器・検査機器、義肢装具・訓練機器、生活環境・自助具・支援機器の改良・開発が必要とされる。社会的不利益は環境との不適合が原因である。日本語でハンディというが、ハンディを持っている人というとその個人の問題で終わってしまうが、Handicapは受ける物である。[補足:英語で the Handicappedというのは社会や環境から障害を受けている人全てをいうが、日本では「障害者」に限定して用いられてきた]
バリアは、平成七年度版障害者白書において物理的、文化・情報面、制度上、意識上の4種類に分けられている。[補足:ここで、物理的バリアに関して相良さんは兵庫リハビリセンター時代に開発された様々な福祉用具を障害者の症状と併せて紹介した。]
例えば、米国では14インチ以上のテレビは文字多重放送を受診できるようになっているが、日本では文字多重放送自身もまだまだ少ない。阪神淡路大震災のとき、ニュースでNHKは手話を止めた。これらは情報面のバリアである。
次に縦軸にハードウエア/ソフトウエア、横軸に個人/社会の軸を取った平面図で、各バリアがどの領域に存在するか、ユニバーサルデザイン・福祉用具・法・教育、ユニバーサルデザイン・尊厳・共生がどのような領域に存在するか説明された。デザインには、障害者配慮デザイン(その人の特性に配慮し適合しうる製品:個別解)、障害者対応デザイン(既存のものを対応させる製品:補助具・アダプタなど)がこれまでの解決手段の中心に置かれてきたが、結果として病院・施設向けのイメージから抜けきれない特殊な高価な物としてしか存在し得なかった。
新しい展開として、世代を越え、平均値からの脱却を計るユニバーサルデザインがある。ユニバーサルデザインの原則は、ノースカロライナ大学のCenter for Universal Designによると:
1.誰のでも公平に使用できること(入手が可能であるにはマーケットに出ないと駄目)
2.使う上での自由度が高い。選択が可能。(例えば、同じ高さに電話を3台セットで並べるより、高さを3段階に変えて並べた方が、自由度が高い。神社の男坂(きつい坂)・女坂(ゆるい坂)もその良い例である。 -
3.簡単で理解が容易なこと
4.情報が容易に認識できること
5.操作を誤っても大丈夫なこと
6.身体へのストレスが少ないこと
7.接近し、使用のための空間が配慮されていること
ところで、バリアフリーを障害者対策の特殊解であり、使い古された言葉としてとらえ、「バリアフリーからユニバーサルデザインへ」という掛け声が目立つ。
相良さんは、障害配慮デザイン(アクセシブルデザイン:個別対応の特殊解)、障害対応デザイン(アダプタブルデザイン:一般の建築や製品を使用できるように後から対応)、ユニバーサルデザインの3つの手法がバリアフリー社会を築くと考える。
日本は金、アメリカは物、ヨーロッパは心の観点からデザインを捉えて見ることができる。和を持って尊しとなす‐>外れる者は仲間外れの日本的思考、リハビリテーション法508条(障害者が電子情報やデータを同等にアクセスすることを支援)、ADA(1990年アメリカ人障害者法:障害を持つ人のための公民権の保護、誰でもが障害で差別されてはいけない)によるアメリカの物の観点からの思考、ノーマライゼーション発揚の地、ヨーロッパでは心の観点(キリスト教的思考)が根底にあるようである。
その結果、アメリカでは車椅子が乗り降りできるようにリフト装置が付いたリフトバス、ヨーロッパ・スウェーデンでは、乳母車や高齢者も乗りやすいノンステップバス(床が低く階段がない)が走っている。
一方、両社会にユニバーサルデザインがすんなり受け入れられたのは、障害者をラベル付けせず、人口の10‐20%が障害を持っていると捉えていることにも日本との違いが見出される。
持続性・価格妥当性・使用性・利用可能性・安全性とデザイン・法的な規制について述べ、様々な共用品を紹介した。例えば、紙幣の長さの違いや、シャンプー容器側面の凸凹や、様々なカードの切り欠きなどの紹介があった。
最後に「障害はその人のおかれている状況と身体および精神的機能の間にギャップがある状態」を指し、昼間は目の見える人が、目の不自由な人の手を引き、真っ暗な闇では、目の不自由な人が目の見える人の手を引くというように状況でも変わることを示し、日本にのみ身体障害者手帳のような手帳制度があることを述べた。
補足:参考URL、98.11.18現在
ユニバーサルデザイン国際ワークショップ
http://www.kenken.go.ip/kenken/04gyouzi/unlv.html 2000.9.26現在無し
E&Cプロジェクトホームページ
http://www.eandc.org/
the Center for Universal Design
http://www.design.ncsu.edu/cud/
兵庫県リハビリテーションセンター/福祉のまちづくり工学研究所
http://www.assistech.hwc.or.jp/
<家庭人の立場からの投稿>
講演をうかがって感じた事を少しお話したいと思います。我家は70才半ばの両親との三世代同居家族です。この両親との日常の生活の中で小規模ながら沢山の障害が生じているのを感じていました。即才に手が届いた私達夫婦が想像もできないような障害が両親にとって日々増えているようです。その障害(筋力、感覚器の老化に伴う行動、例えば物によく寄りかかる等)が原因で生じた住居や道具のダメージを補修することで対処してきました。「しょうがないから直しておかなければ!」という気持ちだけでした。が、お話を聞きながら視点を少し変えなければと思いました。これから先、私たちも同じ体験をするはずです。その時の為にもユニバーサルデザインの考え方を踏まえて出来る工夫を自分たちで考えていかねばと。年寄りとの同居にはユニバーサルデザインの考え方はぴったりだと思いました。年寄り中心の仕様でも子供や私達にとっては不十分だし、その逆もまた不十分です。全体が歩み寄れる、妥協によって見つけるのではないキーポイントを見つけていくのがこれからの課題かも知れません。その点においても、お仕事として取り組んでいらっしゃる相良さんの様な方のお話の中で色々な具体例がうかがえた事はとても良い勉強になりました。
ただ毎日の生活に追われてこういうお話をうかがえる機会が少ないし、講演開催の情報もなかなか得られないのが現状です。一人でも多くの方にこういう講演を聞けるチャンスが増えることを願っています。
(電子技術総合研究所 池上真由美)
講演会開催担当者連絡先
電子技術総合研究所知能システム部 mbox 1702
小野 栄一
Tel 0298 −61−5978 Fax 0298−61−5971 E−mail eono@etl.go.jp